母の繰り言
おとつい、私の腕時計を見て欲しい、と言った事。
兄が上京する日を指折り数えている事。
弟が最近しっかりしてきたと、呟いた事。
夫がふくよかになってきたと微笑んだ事。
認知症になるのは嫌だ、と嘆く事。
心肺機能が低下しているので病院生活は仕方ないねと認めた事。
毎日、短時間でいいから来て欲しいと懇願した事。
誕生日は9月で88歳を迎えて、100歳まで生きたいと言う事。
年金はちゃんと振り込まれているのかと再三尋ねる事。
療養が終わったら、家に帰って団欒が欲しいと願う事。
重度の認知症と言われた母の、繰り言。何一つとっても異常な言動はない。普通のお婆さんの言葉、態度。両手を合せて有難うと皆に言葉をかけ、食事はゆっくりとこぼすことなく全て平らげる。病院は3時のおやつがないので不親切だと憮然とする。最近、医師に余命が短いなどと告げられてから、特に母の様子は普通然としてきている。明日は病院を退院し、特養に戻る。いつになったら団欒のある家に戻れるのだ。それを遮っているのだ私なのだ。家人は絶対に駄目だと言うが、私は在宅に戻したい。感情論だが。